2ntブログ
2014.06.2819:15

ヘロドトス『歴史』

こんにちは。nexaです。

ヘロドトス(前485ごろ‐前420ごろ)の『歴史』は世界最古の歴史書とも言われ、これによりヘロドトスは「歴史の父」と呼ばれています。また、世界で初めて屍姦に言及した書物でもあります。

今日はこのヘロドトスをご紹介します。

Herodotos.jpg
ヘロドトスの胸像

『歴史』の第2巻はエジプトの習俗や歴史について書かれています。そして2巻の85節から90節に、ミイラの製法を含めた葬送の方法が書かれているのです。


ヘロドトス『歴史』とミイラ

前回、江戸川乱歩の『蟲』を紹介しました。

この中で主人公の柾木愛造が、腐爛し膨張した木下芙蓉の死体を前にいらだちながら、なんとかしようと『木乃伊』という書物を読むシーンがあります。そこにはこう書かれています。

「最も高価なる木乃伊の製法左の如し。先づ左側の肋骨の下を深く切断し、その傷口より内臓を悉く引き出だし、ただ心臓と腎臓とを残す。また、曲れる鉄の道具を鼻口より挿入して、脳髄を残りなく取り出し、かくして空虚となれる頭蓋と胴体を、棕櫚酒にて洗浄、頭蓋には鼻孔より没薬等の薬剤を注入し、腹腔には乾葡萄その他の物を填充し、傷口を縫合す。かくして、身体を七十日間曹達水に浸したる後、これを取り出し、護謨にて接合せる麻布を以て綿密に包巻するなり」



かなり本格的なミイラの作り方です。私はこれを読んで、ヘロドトスの『歴史』の中に出てくるミイラの製法によく似ていると思いました。『歴史』の2巻86節には次のように書かれています(松平千秋訳、岩波文庫版)。

・・・その最も精巧な細工は次のようにして行われる。
 先ず曲った刃物を用いて鼻孔から脳髄を摘出するのであるが、摘出には刃物を用いるだけでなく薬品も注入する。それから鋭利なエチオピア石で脇腹に添って切開して、臓腑を全部とり出し、とり出した臓腑は椰子油で洗い清め、その後さらに香料をすりつぶしたもので清めるのである。つづいてすりつぶした純粋な没薬と肉桂および香乳以外の香料を腹腔に詰め、縫い合わす。そうしてからこれを天然のソーダに漬けて七十日間置くのである。それ以上の期間は漬けておいてはならない。七十日が過ぎると、遺体を洗い、上質の麻布を裁って作った繃帯で全身をまき、その上からエジプト人が普通膠の代用にしているゴムを塗りつける、それから近親の者がミイラを受け取り、人型の木箱を作ってミイラをそれに収め、箱を封じてから葬室内の壁側に真直ぐに立てて安置するのである。



 もっとも、ヘロドトスの『歴史』には松平氏のほかに青木巌氏の訳がありますが、いずれも最初に世に出たのは戦後、昭和40年代ですから、昭和4年の『蟲』がこれを参考にできるはずがありません。実は『歴史』にはさらに古く、坂本健一氏による明治39年の訳があります。そこでは次のように訳されており(157ページ)、松平訳(青木訳もほぼ同様)よりも『蟲』の『木乃伊』から遠ざかっている感があります。

最高價なるは、先づ鐵鈎を以て鼻孔より腦を牽出し、その殘れる部分は藥力に由りて除き去り、次に鋭利なるエチオピア石を以て屍側を割き、悉く臓腑を去り、腹中を浄め、椰子酒を以て之を洗浄し、香粉を散じ、ミルラの純末、カシア其他の香料を以て腹腔に滿てゝのち、側口を縫ひ、屍をナトリウム中にひたすと約七十日にして取り出して善く外面を洗ひ、護謨を抹りし麻布を以て裹み畢る。遺族の來りて屍形に合する木棺を造りて、屍を納め棺函を緊縛して靈室の壁にたてかけて保存す。これ最高價なる法式なり。



松平訳(青木訳も)で「ソーダ」、『蟲』で「曹達」となっている部分が「ナトリウム」になっています。実はこの部分、原文では "λίτρον" となっており、これが何を指すのか、実はよくわからないのです。

おそらく江戸川乱歩はこれら日本語訳からではなく他の言語の訳で『歴史』を読み、作品中に取り入れたのでしょう。


ヘロドトス『歴史』と屍姦

ところで、ヘロドトス『歴史』は、屍姦の話が出てくる人類最古の文献として知られています。2巻89節には次のように書かれています(松平千秋訳、岩波文庫版)

名士の夫人が死亡した時は、すぐにはミイラ調製には出さない。特に美貌の女性や著名な婦人の場合も同様である。死後四日目または五日目にようやくミイラ職人の手に渡すのである。このようなことをするのは、ミイラ職人がこれらの女性を犯すのを防ぐためで、現にある職人が死亡したばかりの女性の遺体を犯している現場を、同業者の密告によっておさえられたという話がある。



坂本訳では格調高くこのように訳されています(158ページ)。屍姦が古代エジプトで実際に屍姦があったという部分がなくなっていますね。



然れども門地ある者の夫人、美姫若しくは名ある婦女は死して三四日を經ざれば木乃伊製造者に委ねず。遺骸を辱しめんを恐るればなり。



原文は次の通りです(Ιστορίαι (Ηροδότου)/Ευτέρπη - Βικιθήκη)。

τὰς δὲ γυναῖκας τῶν ἐπιφανέων ἀνδρῶν, ἐπεὰν τελευτήσωσι, οὐ παραυτίκα διδοῦσι ταριχεύειν, οὐδὲ ὅσαι ἂν ἔωσι εὐειδέες κάρτα καὶ λόγου πλεῦνος γυναῖκες· ἀλλ᾽ ἐπεὰν τριταῖαι ἢ τεταρταῖαι γένωνται, οὕτω παραδιδοῦσι τοῖσι ταριχεύουσι.
τοῦτο δὲ ποιεῦσι οὕτω τοῦδε εἵνεκεν, ἵνα μή σφι οἱ ταριχευταὶ μίσγωνται τῇσι γυναιξί· λαμφθῆναι γὰρ τινὰ φασὶ μισγόμενον νεκρῷ προσφάτῳ γυναικός, κατειπεῖν δὲ τὸν ὁμότεχνον.



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ヘロドトス『歴史』の古断簡

屍姦には古代エジプトの悠久の歴史があることがわかりますね。

それにしても、屍姦現場を見つかってしまったミイラ職人はうっかり者でしたね。彼が捕まるまで、多くのミイラ職人たちは気兼ねなく屍姦を楽しんでいたことでしょう。それを密告した同業者はひどいですね。その一件がなければ、ミイラ職人に屍姦されることを遺族が警戒することもなく、ミイラ職人たちは屍姦を楽しめたはずなのです。

古代エジプトも屍姦に対する風当たりは冷たかったようですね。

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